映画史に一石を投じる必読本
 文筆を業とする者ならば、必ずや生涯に一冊というテーマを胸中にあたためているはずである。本庄慧一郎にとって、それが、四人の叔父がスタッフとして在籍し、少年期、撮影所の雰囲気を吸収しながら育った大都映画の全貌を解明していくことであっても何ら不思議はあるまい。
 実際、大都映画で製作された映画の中で、完全、不完全を問わず現存している作品はごく僅かでしかない。そこで著者が選んだのは、創始者・河合徳三郎を軸に映画史の未開拓部分に斬り込んでいくことであった。徳三郎は、西南戦争後の全国的不況の中、故郷岐阜から星雲の志を抱いて上京。“もっこ抱き(かつぎ)”をふりだしに、土建業者〜博徒集団の風雲児として名を轟かせた。さらに頭山満や後藤新平の知遇を得て政治外郭団体のリーダーとして東京府会議員を二期八年つとめ、いまも泉岳寺に遺る、大石良雄の碑を建立したりした。そして昭和二年、大都映画の母胎となった河合映画会社を発足。同十七年、政府の映画製作会社の統合命令により、日活、新興キネマとともに大映として合併吸収されることになる。
 著者の意図は、これまでの権威主義的な映画史にはほんの一ページくらいの扱いで、かつ、「満州事変から日中戦争に至る時期にキワものと呼ばれるニュース・ストーリー的な愛国的国策映画をいちばんたくさん作ったのはこの会社だった」と記されている誤記等を糺すことであった。この一巻によれば、大都映画「大号令」という大作国策映画一本をつくったことを免罪符に、ますます娯楽路線の充実を図ってゆく。
 つまり、本庄の主張は、大都映画とは、社会の不況の中から躍り出た一代の奇傑・河合徳三郎がつくった娯楽の殿堂、すなわち、映画界の<立川文庫>というべきもの。そして、熱烈な固定ファンと驚異的な本数を封切り、経営破綻でなく、軍主導の国家の命令によって潰された映画会社である、ということになる。
 従来の映画史に一石を投じる客観性と、行間からにじみ出る愛情が一体となった映画ファン必読の一巻だ。(文芸評論家・縄田一男)
2009年2月5日号週刊新潮 BOOK OF THE WEEK




読書 本と人と 「日の当たらない足跡に光」
 日本映画史上なおざりにされ続けてきた「B級三流」の大都(だいと)映画。メジャー会社からのそしりもどこ吹く風で、戦前・戦中と娯楽作を量産し大衆に愛されながら、やがては政府の戦時企業統合令でつぶされるー。長く日のあたらなかった足跡を、創始者である河合徳三郎の人生を軸に掘り起こしました。
 「『つましく貧しい人のために』が大都の理念。私のルーツはここにあります」。子ども時代、叔父四人が大都のスタッフでした。巣鴨の撮影所は格好の遊び場。
 大都の脚本家から劇作家に転じた叔父に、十代の終わりごろ弟子入りします。その後、放送作家として「ママと遊ぼうピンポンパン」、コピーライターとして「ぼく、タコの赤ちゃん」など、一世を風靡(ふうび)する作品を数多く残しましたが、「企業の広告では、自分のメッセージは届けられない」。五十九歳で作家に転身。時代小説を中心に六十数冊手がけてきました。
 今回「芸能文化史」に挑んだのは、さらに直接的な思いを届けたかったから。
「政府命令で大都もやむなく戦意高揚映画に手を染めますが、娯楽作もしぶとく作り続けた。めいっぱい抵抗していたんです」
「表現の自由が規制されれば文化は枯渇、国も滅びる」。弟をおぶり逃げ惑った空襲の記憶、反戦の願いが全編に通底します。個人の情熱だのみで、文化に国が助成が乏しい現状にも「腹を立てている」。
 文筆業のかたわら平和を願う歌のCDも制作。大都映画をテーマに舞台脚本も執筆、既に上演され好評を博しました。現在も表現したいあれやこれやが胸中にひしめきあう「僕は雑穀米」。(田中佐知子)
2009年2月15日(日)しんぶん赤旗




書評 幻のB級!大都映画がゆく
  戦前、大都映画という映画会社があった。「楽しく、安く、速く」をモットーに、時代劇、喜劇など大衆娯楽作品を量産し続けた。
 大手からは三流と蔑視(べっし)され、映画史のなかでなおざりにされてきた。現存している作品も少ない。しかし昭和ひとけた世代には、子供の頃(ころ)に夢中になった懐かしい映画会社。
 市川百々之助、杉狂児、ハヤブサヒデト、水島道太郎、近衛十四郎、琴糸路、大山デブ子ら大都スターを懐かしく思い出す人も多いだろう。
 昭和七年生まれの著者は叔父が大都映画の脚本家だったことから忘れられたこの映画会社に光を当てる。
 建設現場の労働者から映画会社を興した河合徳三郎の風雲児ぶりは圧巻。戦時下でも娯楽映画を作り続け反骨を見せたのはみごと。(川本三郎)
2009年2月15日(日)毎日新聞



*** お知らせ ***
自主CDを制作
21.1:130:128:0:0::center:0:1::
平和を願う歌
「鳥になれたらいいね」
総合プロデュース:本庄慧一郎
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