「社会&芸能・つれづれ愚差」第157回(通算269回)

井上ひさし氏・ばばこういち氏・福田陽一郎氏のこと

 2010年4月12日(日)の朝日新聞の朝刊に井上ひさし氏、ばばこういち氏、そして福田陽一郎氏の訃報がのっていた。
 井上氏(75)、ばば氏(77)、福田氏(77)である。
 ばば氏とは赤坂一ツ木通りの事務所時代よくお伺いした。今年の初め、ばば氏とはご近所づきあいをしている作曲家桜井順氏から、ばば氏の鎌倉のご自宅の電話番号を教えてもらい長々とお話をした。
 ジャーナリストばばこういちとして活躍している時代からの知己で、考え方などに違和のないまじめな人だった。
 福田陽一郎さんは〔同業者〕ではありましたが、そのお仕事ぶりにはつねにいい刺激をもらいました。ミュージカルやテレビの脚本などセンスのいいホンを書いておられた。しかし、ついにじかにお話をすることはなく……残念でした。
 井上ひさしさんは、じかにお目にかかったことはない(小生は見かけによらず積極的社交性がない――ホントです!)ものの、エニシは深い。
 とにかく作家としての井上さんにずっと注目してきたし、作品はもちろん注目してきた。
 1959年(昭和34年)発足(と同時に小生は会員になった)の日本放送作家協会&日本脚本家連盟の「脚本家年鑑」には、「井上ひさし」と一緒に「本庄慧一郎」も載っているが、井上氏の代表作のテレビは「ひょっこりひょうたん島」で、戯曲は「表裏源内蛙合戦」とある。


畏友・熊倉一雄氏と井上ひさし氏

 2006年に放送作家・広告コピーライター、そして時代小説の仕事とあれこれ廻り道した小生は、熊倉一雄氏のリードでやっとテアトル・エコー第131回公演「大都映画撮影所物語」を、熊倉御大を芯にした公演で具体化して頂き、好評を得た。
 今回、井上ひさし氏の訃報に関する記事はいろいろ出たが、この熊倉さんと井上さんの肝心の出会いの周辺のことはあまり触れられていないようだった。
 ということで、数十冊あるはずの井上さんの著作本のうちの「表裏源内蛙合戦」(なんとこのホンは5冊も買っていた!)で、その新潮社本の井上さんご本人のあとがきからこの傑作戯曲についての文章を抜粋して転載させて頂く。

〔日本人のへそ〕
 劇団「テアトル・エコー」第34回公演。
 一九六九年二月六日恵比寿エコー屋根裏劇場で初日。十二日間六回上演した。
 演出・熊倉一雄。
 (※データ略)
〔表裏源内蛙合戦〕
 劇団「テアトル・エコー」第36回公演。
 一九七〇年七月十七日から八月五日まで二十日間二十六回、新装の劇場「テアトル・エコー」の杮(こけら)落とし公演として上演された。
 演出・熊倉一雄。
 (※データ略)

あとがき
 物心つく頃から、歌と芝居が好きだった。大学時代、アルバイトで浅草のストリップ小屋で働いていた時期があるが、ストリップの演目(だしもの)は歌と踊りと小芝居の寄せ集め(バラエティ)で、殊のほか気に入った。
 『うかうか三十、ちょろちょろ四十』という題名で、寄せ集め型式の民話劇を書いて文部省に送ったら、芸術祭脚本奨励賞といういかめしい賞を呉れた。
 これは案外いけるかも知れぬ、と気負い込んだ途端、福田善之氏の『真田風雲録』が出た。まことによく出来た歌入り新劇で、鼻ッ先を拳骨で思い切り殴り飛ばされた気がした。恰好よく云えば挫折した。こんな凄い作者が居る間は、新劇を書いてもはじまらぬと思い、潔く放送作家に転向した。恰好悪く云えば退却である。
 放送作家になってからは書きまくった。
 (略)
 『ひょっこり・ひょうたん島』(児童文学者の山元護久と共作。武井博ほか演出)はそのひとつの成果だった。
 (略)
 「てんぷくトリオ」の座付き作者をしながら、コントの勉強をした。昔、浅草で働いていた事が役に立った。この間(かん)、私の番組というと決まった様に顔を出す役者が居た。新劇人にしては矢鱈に歌の上手な人であったが、この人が熊倉一雄氏で、芝居とコントと歌と踊りの寄せ集めの新劇を書いてみる気はないかと誘った。「福田ショック」の後遺症はまだどこかに残っていたが、但し、徹底的に歌を入れ、徹頭徹尾、笑いのめし、洒落のめせば、「福田ショック」を吹き飛ばせるかも知れぬと考えた。こうして、一年がかりで書き上げたのが『日本人のへそ』である。
 (略)
 熊倉一雄氏にまた乗せられ、『表裏源内蛙合戦』を書いた。
不器用な癖に器用な振りをしている平賀源内が他人とは思えず、かなり前から、調べておいて書き上げた。
(略)
一九七〇年十一月十二日              井上ひさし



 〔劇作家井上ひさし〕は、ここからスタートしているのである。そのことをここにつけ加えておきたい。

P.S
 私事になるが、この5月に1年がかりの「新宿今昔ものがたり/文化と芸能の三百年」(東京新聞出版部刊)が出るが、その資料本の1冊に「浅草フランス座の時間」(井上ひさし・こまつ座編/文春ネスコ刊)がある。
 おもしろい記述満載のホンだが、昭和22年に公演された原作・田村泰次郎/脚色・小沢不二夫(小生の叔父)/演出・小崎政房による「肉体の門」の記述を参考にさせて頂いた――のだが。



 井上ひさし氏の戯曲(処女作?)「日本人のへそ」をテアトル・エコーが再演する。2010年9月18日〜10月3日。乞うご期待!なにしろ我らがクマさん、益々元気ですゾ!

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        ケイちゃんの目 ↓

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           わが家の桃の花のツボミ

— posted by 本庄慧一郎 at 02:21 pm  

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