今宵あたり、きゃつを冥土におくるか…
愛刀胴田貫正国を鍔鳴りさせ、大上段から振りおろされた一刀は、
男の頭頂を真っ二つに斬撃していた。
男は同じ国目付でありながら、江戸市井の善人男女から金を奪い、犯し、殺す野田宗次郎であった。
重い血の香りがただよう玉圓寺の梅林に立つ早房秀人は、
将軍家光亡き後、幕政の安泰のため中根壱岐守正盛が指揮する国目付−別名廻国者(かいこくもの)とよばれる集団に属していた。
江戸は今、お家取り潰しにあい禄を失った侍が、浪人となって全国各地から押し寄せ、不穏の動きを見せていた。
事件を起こすまえに斬れ!と命を受けている早房だったが…。 (文庫カバー裏より)
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