「社会&芸能・つれづれ愚差」第6回(通算116回)

かつて〔友人・仲間〕はワンサといたが――
 思えば、つねに複数の人たちと組んで仕事をしてきた。
 ラジオ・テレビ、そして広告ビジネスなど、すべてが複数のクルーによる作業だった。
 具体例としては、CM撮影の現場では、昼食や夜食のベントーが80個〜100個を用意した。
 そういう仕事から(さまざまな理由でイヤになって)離脱した。
 当然、友人(らしき者)、仲間(のような者)も激減した。
 淋しいか、と自問すれば「おお、さっぱりして気持ちイイ」である。
 小説を書くようになって、アシスタントのカミさんと家族がクルーとなった。そして、心通じあえるごく少数の編集者の方たち――。
 でも、「この人たちとは、生涯ていねいに心尽くしておつきあいしたいと思える」方々は、もちろんいらっしゃる。
 以前の「玉石混交」とは異なり、ほんとうに信頼できる方々なのである。
 でも、広告ビジネスの時代のおつきあいで、その個性と思考と人間性でいまもって敬愛している人がいる。(あのギョーカイの人では稀有な存在である)
 アート・ディレクターの東本三郎氏だ。(スコッチ・ウィスキー「カティサーク」の真野響子キャンペーンでご一緒し、成果をあげた)
 彼のエッセイ集「人生市場/闇市編・朝市篇」(上下巻)は読ませる。
 その「朝市編」から「八月に思い、九月に忘れる」を転載させて頂く。




八月に思い、九月に忘れる   東本三郎
 中国の教えにある。どんな物でも美味しく食べるにはどうしたらいいか、との問いに賢人答えて曰く、腹を空かせればよい。腹が空けばどんな食べ物でも人は食べる、そして美味しい。空腹は人間にとって最大の脅威であり、逃れられぬ宿命である。
 国が腹を空かせる、空腹となる。故に食物を求めて狂う。これが戦争である。紀元前の昔より、空腹を満たすための戦が繰り返されて来た。現在、国の一番の食物は石油資源である。これがなければ電車は動かず、車は動かず、飛行機は飛べず、電気はつかず、何もかもが中世の昔に戻らねばならない。石油を制すは国を制すである。
 アメリカはあらゆる情報を使って神国日本を戦争に誘導していった。鎖国を続けてきた幼稚日本は、外交の術を知らなかったし今なおそれは続いている。島国日本の命の綱、石油をシャットアウトした。日本は飢えた狼の様に手当たり次第にアジアの国に襲いかかった。ここで歴史を語るつもりはない。人は腹を空かすと狂人になるという教訓である。
 終戦後、ダイヤモンドとジャガイモが交換され、ルビーと卵が交換され、サファイアと米が交換されていった。国の食物は石油であり、人の食物は自然の恵みが生んだ物であった。一個の卵、一個のカボチャ、一個のトウモロコシのために体を許す母たちがいた。戦争の中で安物にされた尊い命。戦後は尊い命のために、すっかり忘れていた自然の恵みに体を張った。国のためではない。生きるためにである。一丁の銃より一個の卵、一隻の軍艦より一頭の牛、一隻の潜水艦より一俵の米である。そこには思想も、哲学もない。あるのは生きるという人間の本能だ。人間という動物の本能だ。
 しかし厄介な事に、人間という動物は他の動物と異なり、空腹を満たした途端によこしまな征服欲が生まれる。神が人間を作ったとしたら、永遠の修羅を作った事になる。空腹が全ての基といえる。ジハード=聖戦と今はいうが、そもそもの原点は日本の神風特別攻撃隊、略して特攻隊である。自爆の元祖である。若き者たちはたっぷりと洗脳、意識は高揚した。何通りも用意された手紙の見本に従い、遺書を書いた。父上さま、母上さま、天皇陛下万歳と。彼らは短期集中洗脳者であった。国もまた、洗脳中毒であった。判断不能、心身不能、理解不能であった。人間は十日間で洗脳できるという。一切眠らせない、同じ言葉を言い続ける。天皇陛下のため、国のため、天皇陛下のため国のため。一日中言い続ける。そして人間爆弾ができ上がる。今も同じである。
 人間に空腹がある限り、または満腹がある限り戦いは終わらない。人間という動物の宿命である。永遠に続くのである。人間は獣であるという事を知らねばならない。最も危険な獣である。
 毎年八月十五日が近づくと戦争の事が場当たり的に語られる。戦争は、人間が人間である以上終わらない事を前提に考えねばならない。情緒だけを八月にだけ語ってはならない。人間は人間を殺す事に快感を感じる生き物なのである。誰の中にもそれはある。人間が極限に追い込まれた時、いかなる人間にも狂気は生まれ、殺気は生じる。五味川純平が『人間の条件』の中で描いた「カジ」なる人間、「カミ」なる人間は一人もいない。歴史は作った者によって滅ぼされるという。ならば人間社会は人間が滅ぼすのであろう。あるいは神が宇宙の真理に従い、この大宇宙の中の迷える小惑星を一瞬にして消滅させるだろう。その日は明日か、明後日か判らない。いかなるSF映画も及ばない事実と共に消えるのかもしれない。
 人は皆、八月に思う。戦争はいけない、と。だがしかし、九月には忘れている。

— posted by 本庄慧一郎 at 11:19 am  

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