「ニッポンの芸能人」シリーズ53


映画「寝ずの番」について。
 アメリカ映画「プロデューサーズ」に続いて、日本映画「寝ずの番」をワイフと観た。(そうだ「プロデューサーズ」の前は「有頂天ホテル」を観ている)
 「寝ずの番」(原作中島らも)は、監督マキノ(津川)雅彦。
 日本映画草創期をリードしたマキノ雅弘の甥になる俳優津川雅彦第一回監督作品となるこの作品、一人の落語界の御大の死をめぐっての、親族と弟子たちの通夜をめぐるテンヤワンヤを描いた笑劇(farce)である。
 いわゆる「オトナのバレ話」であり、「玄人好みの楽屋オチ譚」である。
 当然、古典落語そのもののネタも出てくるし、かつてお座敷芸として演じられていいたアブナイ裏芸も登場する。
 とりわけ、主人公の笑満亭橋鶴がヒン死のベットで「ソトが見たい」と息きれぎれに呟いたのを弟子が「ソソが見たい」と聞き違え、別の弟子の若い女房がベッドの病人の顔の上に仁王立ちして、ソレを開陳するというユニークなエピソードでさんざんに笑わせる。
 このハナシは、ぼくも何年か前に小説に書いている。モトネタは、浅草で人気を集めた歌手田谷力三が死期近いベットで「空が見たい」と言ったのを「ソソが見たい」と聞き違えた弟子が、ストリッパーを連れてきてたっぷりナニを開陳した――と浅草芸能史にあるのだ。
 それにしても、艶歌・ワイ歌・バレ歌などとそれに伴う珍芸・裏芸の連発でおもしろかった。(あの種の演出はやはり津川雅彦サンのキャリアがフルに活かされているのかと思わざるを得なかった) 

美少年津川雅彦のこと。

 ぼくの叔父であり物書きとしての師である劇作家小沢不二夫(新宿ムーランルージュ出身)は、民放ラジオ・テレビ、それに舞台のホン(ムーランはもとより、不二洋子劇団・新国劇・新派など)を沢山書いていた。昭和30年代初めから、当時大人気だったラジオドラマも多作した。
 その中の伏見扇太郎主演で映画化もされた「風雲黒潮丸」とか「月の影法師」(ニッポン放送制作)はヒットした。
 この「月の影法師」は若き日の島倉千代子が出演していたし(スタジオでのスナップ写真がある)、そしてこの番組に出演していた津川雅彦は文字どおりの紅顔の美少年だった。
 野球好きの雅彦クン(高校生だった?)がある日、叔父の家の近くのグラウンドで試合があるとかで、あいさつに立ち寄ったことがあった。
 素顔の彼はほんとうに快活な美少年で、同性でもそのハンサムぶりにはうっとり見愡れたものだ。
 そして現在の彼の――そのキャラのユニークさと迫力には???!!!でまた魅かれる。

達者なワキ役たちについて。
 御大(長門裕之)のカンロク、その風情もスゴイなあ、と感嘆したが、取り巻きの中井貴一(パパの佐田啓二もイイ男だった)、岸部一徳(ご舎弟のシロー君とはラジオDJ番組で付合ったなあ)、そして富司純子。このヒトには藤純子で、あの菊五郎丈と結婚してスグ、CM(カネボウのヘア・シルク・リンスだったかな?)で自宅に参上、打合わせをした。
 テーブルや家具の角ッコにはすべてスポンジが貼り付けてあった。
 幼い愛児が頭や顔をぶつけるとイケナイ! という配慮だったのだろう。
 その愛児が、現在の尾上菊之助である。(そして寺島しのぶである)
 御大の夫人の志津子を演じる富司純子サンが唄う「オトナの歌」もまあ、ヌケヌケと楽しかった。
 出演者の一人、堺正章も芸達者だが、彼のパパはあの堺駿二。
 堺駿二はぼくの叔父小沢不二夫と「同じ釜のメシを食った仲」で、幼い時の正章少年とこのボクは一緒の風呂に入って洗ってやったことがある――とあるパーティでご本人に告げたら「へえ!」と目を丸くしていた。
 もうお一人、吉野夫人という役名で自転車に乗って登場する浅利香津代は、親しくさせて頂いているベテランの女優さんだ。このところ、松平健の「マツケンサンバ」ブーム以来、とんとお目にかかれないが。いつも若くチャーミングな彼女の達者な芸がもっと活きる場がないかと思う。
 さて、この「寝ずの番」のパンフレットの味のある筆文字、書いたのは緒形拳とある。拳さんは、叔父小沢不二夫作の脚本「石狩の空」(新宿第一劇場だった)の舞台げい古から見ている。花道を走り出てくる若き日の拳さんは「カモシカのようだった」と鮮明に記憶している。
 その後、新国劇の「王将」や「国定忠治」の東劇の楽屋で、師の辰己柳太郎サンの疾の手当てをしてやっている彼の姿を見ていて――。
 以上、この映画では、あれこれ「しみじみとしたノスタルジー」をも味わったのである。

— posted by 本庄慧一郎 at 05:00 pm  

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